オフィスビル投資は表面利回りが当てになりません。販管費上昇に加え、築15年・築30年で空調や受変電など大規模改修が来ます。建築費高騰と人手不足で工期も読めない時代の利回りの見抜き方を解説します。
不動産投資で最初に目を奪われるのが「利回り」です。物件情報の先頭に表示される表面利回りは、比較が簡単で判断もしやすいです。ですが、オフィスビル投資において表面利回りは、ときに危険な“錯覚”になります。
結論から言います。オフィスビルは「販管費の重さ」と「大規模改修(CAPEX)」で、利回りが別物になります。さらに近年は、建築費の高騰と深刻な人手不足で、工事を「やりたい時期にやれない」時代に入りました。短期保有・転売目的であっても、費用構造と将来支出をよく精査しないと、リスクが極めて高くなります。
この記事では、表面利回りに惑わされず、NOI(純営業収益)とCAPEX(将来の追加投資)、そして工期リスクまで織り込んで、オフィスの“本当の利回り”を見抜く考え方を整理します。
表面利回りは「入口」にすぎない。投資判断はNOIで行う
投資物件の表面利回りは、
年間賃料 ÷ 購入価格
で算出されます。手軽ですが、運営に必要な費用が入っていないため、投資の実態からズレることがよくあります。
そこで重視すべきが
NOI(Net Operating Income:純営業収益)です。
NOI = 賃料収入 − 運営費(OPEX)
オフィス投資では、表面利回り→NOIに落とした瞬間、「思ったほど残らない」ことが起きやすいです。
理由は、オフィス特有の固定費構造にあります。
【罠①】オフィスビルは販管費が重い。しかも削りにくい
オフィスは住居系より設備依存が強く、固定費が多い傾向があります。典型的には以下の費用が重くなります。
• 共用部の電気代、空調関連費
• 清掃費、警備費、点検費(法定点検含む)
• エレベーター保守、消防設備点検、建築設備点検、建築物・建築設備の定期報告、防火設備点検
• 空室中でも発生する維持費(最低限の照明・点検・清掃など)
• テナント入替時の原状回復・募集費(リーシング関連)
さらに現場感として重要なのが、これら全ての費用が上昇傾向にあることです。人件費・外注費の増加を背景に、管理側のコスト増をオーナー側が受け止めざるを得ない局面が増え、削減は簡単ではありません。結果として、表面利回りと実際の手残りの差は広がりやすくなってしまいます。
【罠②】「ネット利回り」でも安心できない:定義がブレる+抜けが多い
「ネット利回り」と書かれていても、控除している項目が案件ごとに違うことがあります。オフィスで効いてくるのは、以下の“実務上避けられない費用”です。
• テナント入替時の原状回復・広告費・仲介コスト
• フリーレントや条件調整による実質賃料の低下
• 空室期間中の固定費
• 募集長期化に伴うリーシング費用の増加
したがって、オフィスでは「ネット利回り」というラベルを信じるのではなく、科目内訳を確認してNOIを自分で組み直すことが必須になります。
【最大の落とし穴】築15年・築30年は設備更新の“波”が来る(CAPEXの本丸)
オフィスビルの利回りを壊す最大要因は、大規模改修(CAPEX)です。そしてCAPEXには“波”があります。
特に注意すべき節目が築15年と築30年です。
築15年で効いてくる:空調更新(1回目)
築15年付近では、まず 空調が大きなテーマになります。部分更新でもまとまった費用になりやすく、物件によってはテナント調整も必要です。表面利回りが高く見える物件ほど、この更新費が織り込まれていないことがあります。
15年目の空調更新は、単純な機器更新で済むケースが多いと思われますが、それでも入居中のテナント内部での工事になりますので、休日夜間の工事が必須になり、テナント調整も必要になります。
築30年で本格化する:2回目の空調+電気・衛生・配管まで
築30年付近は、更新の“本番”です。典型的には
• 2回目の空調更新
• 受変電設備
• 発電機
• トイレ改修
• 給排水更新
• 空調配管の更新
などが同時期に重なりやすく、かなり大規模な工事になりがちです。ここを軽視して利回り判断をすると、「買った後にまとまった追加投資が来る」構図になります。
いま最も危ないのは「工事が間に合わない」こと(納期・人員・検討期間)
近年、CAPEXのリスクは金額だけではありません。タイミングリスクが急激に大きくなっています。
これまでは、「ある年度に予算化すれば、大体の工事は年度内に竣工できる」運用が成立していました。しかし今は状況が変わりました。
• 機器の納期が1年かかるものもある
• 人員確保や施工計画の検討で、着工までに半年程度要することもある
• 予算化しても、その年度に竣工させるのが難しいケースが増えている
つまり、「予算を付けた=今年直せる」ではない。
そして厄介なのは、設備は“都合よく壊れてくれない”ことです。不具合が発生すれば修繕は避けられず、工期が伸びれば、テナント対応・運用制約・収益への影響が発生します。
短期保有・転売目的であっても、築15年・築30年に近い物件は精査しないと極めて危険です。短期ほど「工事に当たらない前提」で組みがちで、外れた瞬間に収支が大きく崩れてしまいます。
コストの問題だけでなく、空調設備等が壊れてしまった場合、ビル運営に支障をきたすリスクがあります。賃料減額や退去に繋がってしまう恐れもあります。
表面利回りの罠を回避するチェックリスト(築年数×工期リスクの実務版)
オフィス投資では「出ない情報=リスク」です。最低限、次を確認してください。
1. OPEXの科目別内訳(管理・清掃・警備・点検・電気・空室固定費)
2. PMフィーの水準と改定条件(今後上がり得る前提で耐性を見る)
3. 築15年・築30年の更新波に該当するか(空調・受変電・配管・衛生)
4. 直近5〜10年の修繕履歴(内容・金額・範囲)
5. 長期修繕計画(10〜15年)の有無(なければ安全側に見積もる)
6. 主要機器の納期・調達リスク(現実のリードタイム前提で見る)
7. 工事の検討期間(半年〜)を織り込んだスケジュール感で試算
8. ネット利回りの定義を確認し、NOIを自分で再計算
9. CAPEXを年平均化(積立前提)し、CAPEX込み利回りで判断
まとめ:オフィスの利回りは「見た目」ではなく「費用構造+更新波+工期」で決まる
オフィスビル投資では、表面利回りは入口にすぎません。
販管費が重く、管理費用も上昇傾向で削減が難しい。さらに、築15年で空調、築30年では空調2回目・受変電・発電機・トイレ・給排水・配管といった更新が重なり、CAPEXが大きくなりやすい。
そして今は、建築費高騰・人手不足・機器納期の長期化で、予算化しても発注者側の希望スケジュールでの竣工が難しい時代です。不具合が出れば先送りできず、修繕は避けられません。
だからこそ、短期保有・転売目的であっても、表面利回りに飛びつかず、
• NOI(科目内訳)
• CAPEX(築15年・築30年の更新波)
• 工期リスク(納期・人員・検討期間)
まで織り込んで判断してください。
利回りは数字ではなく構造。構造を見抜いた人だけが、オフィス投資で勝ち残ります。
投資物件の中には、長期修繕計画はあるものの、更新費用を終始計画に全く反映していないものもあるので特に注意が必要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 築15年の「空調更新」は、どの程度の確率で発生しますか?
A. 物件の仕様(個別空調/中央熱源)、運転時間、メンテ状況で差はありますが、実務感として築15年前後は空調が“更新テーマ”として顕在化しやすい節目です。大型ビルの場合、単年での工事は難しく、15年を目処に複数年にわたって工事が必要になる可能性があります。
「完全更新」だけでなく、熱源機・室内機・制御・一部系統の更新など、部分更新でもまとまった支出になりやすいので、売出資料に修繕計画が薄い場合は注意してください。
Q2. 築30年で大規模になりやすい工事は具体的に何ですか?
A. 築30年前後は更新が重なる“波”が来やすく、特に
• 2回目の空調更新
• 受変電設備
• 発電機
• トイレ改修
に加え、給排水や空調配管も更新時期を迎えて、工事が大規模化しやすいです。
このタイミングのCAPEXを織り込まずに利回り判断すると、追加投資で収支が崩れるリスクが高まります。
Q3. 短期保有・転売目的なら、大規模改修は無視しても大丈夫ですか?
A. 基本的におすすめしません。短期ほど「工事に当たらない前提」で収支を組みがちですが、不具合が出れば修繕は避けられないためです。
特に築15年・築30年付近は、設備更新の波と重なりやすく、精査不足だとリスクが極めて高い。短期目的でも、少なくとも「次の更新が近い設備」と「更新コストのレンジ」を把握して、価格・出口戦略に反映すべきです。
Q4. CAPEX(大規模改修費)を投資判断にどう織り込めばいいですか?
A. 最低限、次の手順が実務的です。
1. 修繕履歴(5〜10年)と長期修繕計画(10〜15年)の有無を確認
2. 計画が薄い場合は、築年数に応じて「空調」「受変電」「給排水・配管」「衛生」を重点に安全側に見積もる
3. CAPEXを年平均化して、CAPEX込み利回り(またはIRRイメージ)で比較する
ポイントは「費用をゼロ扱いしない」こと。ゼロ扱いの利回りは、見た目が良いだけになりがちです。
Q5. 最近は工事が遅れると聞きます。投資家は何を前提にすべきですか?
A. 以前は「予算化すれば年度内に竣工」が成立しやすかった一方、今は
• 機器納期が1年かかるケース
• 人員確保や施工検討で半年程度要するケース
があり、予算化してもその年に竣工できない状況が増えています。
投資判断では、工事費だけでなく「納期・人員・検討期間」を織り込み、工期が伸びた場合の運用制約・収益影響(テナント調整や空室リスク)まで想定するのが安全です。
最後までお読みいただきありがとうございました。


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