建築物定期調査報告書の作成では、現地で確認した事実を正確に整理し、公式様式と照合しながら、資格者が最終判断を行う必要があります。本記事では、Google Geminiを「下書き・整理・確認補助」に限定して使う手順を、一級建築士・宅建士の実務目線で解説します。
この記事はこんな人に向けて書いています
- 職業・立場:建築物定期調査・建築設備定期検査を担当する一級建築士、または検査補助者
- 悩み・状況:現地メモ、写真、過年度報告書を報告書の項目へ整理する作業に時間がかかっている
- 達成したいこと:入力情報を安全に扱い、確認済事実・未確認・推測を分けた精度の高い下書きを作りたい
先に結論から言うと、Geminiに報告書を「完成させて」と依頼する使い方は避けるべきです。建築基準法に基づく定期報告制度は、建物の使用開始後も適法な状態を確保するため、所有者に調査・検査結果の報告を求める制度です。調査や検査は法令に基づく資格者が実施します。[1] Geminiは、現地で得た情報を文章や表に並べ替える補助には使えても、劣化の有無、判定区分、是正の要否、法令適合性、署名の責任を引き受けません。
なお、制度の対象、調査・検査項目、結果表の様式は、国の告示だけでなく特定行政庁の運用にも左右されます。国土交通省は、建築物や防火設備、建築設備、昇降機などについて、告示・様式・改正情報を公開しています。[1] 作業開始時には、必ず提出先の自治体が指定する最新版の様式、提出期限、添付資料、運用細則を確認してください。

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この記事の結論:AIは定期調査報告書の下書きを整えますが、調査所見・判定・報告書への記載は資格者の現地確認が前提です。
観察記録の構造化、下書きの整理、未確認事項の洗い出し。
現地調査、判定、報告書への記載、資格者としての最終確認。
AIは下書きの補助に限定し、調査所見・判定・報告書への記載は資格者が現地確認と基準に基づいて行います。
下書きの各所見に、現地写真・確認日・資格者確認の根拠を紐づけてください。
1.建築物定期調査報告書でAIに任せてよい作業、任せてはいけない作業
実務で迷いやすいのは、「文章を作る」こと自体ではなく、どこまでを補助とし、どこからを資格者の判断に戻すかです。Geminiへ渡す前に、作業を三つの層に分けると安全です。
| 作業層 | Geminiに依頼できる例 | 人が必ず確認する点 |
|---|---|---|
| 整理 | 現地メモを「部位・位置・確認内容・写真番号」に分解する | 転記漏れ、階・室名、写真との対応 |
| 下書き | 確認済みの事実だけを、報告書に貼り付けやすい短文へ整える | 表現が観察事実を超えていないか、断定を加えていないか |
| 確認補助 | 空欄、矛盾、未確認項目、様式との照合候補を一覧化する | 告示・自治体様式・過年度資料・現地の再確認 |
| 判断 | 依頼しない | 判定、法令適合性、是正の緊急度、提出、署名は資格者が行う |
特に危険なのは、写真が不鮮明なのに「ひび割れは軽微」「避難上支障なし」とAIに言わせることです。目視できない情報を推測で埋めると、報告書の信頼性を損ないます。Geminiの回答は便利でも、現地調査の代替ではありません。
2.最初に作る「事実・未確認・推測」の三分類
確認済事実は、見たもの・測ったもの・聞き取ったものに限定する
確認済事実には、たとえば「3階東側廊下の防火戸について、閉鎖状態を目視確認した」「外壁北面のタイルに浮きのような音を確認した」「写真P-018に対象箇所が写っている」のような情報を入れます。誰が、いつ、どの方法で確認したかが残っていれば、後から原資料へ戻れます。
未確認は空欄ではなく、次の行動につながる記録にする
「未確認」は失敗ではありません。足場未設置、点検口が開けられない、設備停止の承認待ち、資料未入手など、確認できなかった理由を記録します。「未確認:屋上防水層の詳細。立入許可が得られず、管理者へ追加確認予定」のように書けば、再調査や照会の対象が明確になります。
推測は事実欄へ混ぜない
「雨漏りの原因は防水層の劣化と思われる」「以前の改修で納まりが変わった可能性がある」といった表現は、仮説や聞き取り情報です。必要なら別欄に「推測・要確認」として隔離し、確認済みの判定結果とは分けます。Geminiには、この三分類を厳守させる指示を毎回入れます。
現場では、メモが断片的なままでも、報告書の文章だけはきれいに整ってしまうことがあります。以前、写真番号と階数の取り違えを見つけたのは、文章の誤字ではなく、写真台帳と平面図を重ねたときでした。AIに整文させた後こそ、原メモ・写真・図面の三点照合を残すことが大切です。

3.Geminiに入力する前の安全対策
入力禁止情報を決めずに、報告書や写真をそのまま貼り付けるのは避けてください。建物名称、住所、所有者名、管理会社の担当者名、電話番号、メールアドレス、鍵や警備に関する情報、入居者・利用者の個人情報、図面に記載された機密情報などは、社内ルールと契約を確認したうえで匿名化・削除します。写真も、顔、車両ナンバー、掲示物、暗証番号、機械室の管理情報が写っていないか確認します。
| 入力前の処理 | 例 | 目的 |
|---|---|---|
| 匿名化 | 「東京都○○区のAビル」ではなく「対象建物A」 | 固有名詞からの特定を避ける |
| 最小化 | 住所全体ではなく「北面」「3階東廊下」 | 必要な情報だけを渡す |
| 除外 | 氏名、連絡先、鍵番号、利用者の顔 | 個人情報・防犯情報の漏えいを防ぐ |
| 原本分離 | 原写真・原様式は社内保管し、AIには整理用データだけ渡す | 証跡と提出データを守る |
また、所属組織の情報管理規程、顧客との秘密保持契約、Geminiの利用プランや管理設定を確認してください。AIを使った事実、入力したデータの範囲、出力を採用した箇所は、案件記録に残しておくと、後日の説明がしやすくなります。
4.そのまま使えるGeminiプロンプト
以下は、判断をAIへ委ねないように設計した下書き用プロンプトです。[ ]内を匿名化した情報へ置き換え、現地メモと写真台帳の情報をテキストで渡します。画像を使う場合も、事前に個人情報や機密情報を除去してください。
あなたは建築物定期調査報告書の「整理・下書き補助」です。
判定、法令適合性、是正の要否、緊急度、提出可否、署名者の判断はしないでください。
入力情報を次の3分類に分けてください。
A 確認済事実:現地メモ・測定記録・写真台帳に明記された内容のみ。
B 未確認:確認できなかった項目と理由、追加確認の方法。
C 推測・聞き取り:事実と混ぜず、要確認として隔離。
情報が足りない場合は「不明」と書き、補完や創作をしないでください。
出力項目:部位/位置/確認内容/根拠資料・写真番号/分類/原文からの変更点/資格者確認欄。
最後に、空欄、矛盾、写真番号不一致、公式様式との照合が必要な項目を一覧化してください。
対象建物:[対象建物A]
調査日:[YYYY-MM-DD]
現地メモ:[匿名化したメモ]
写真台帳:[写真番号と撮影箇所]
過年度資料:[差分が分かる範囲だけ]
出力を受け取ったら、「文章が自然か」より先に、原文との差分を見ます。AIが「確認した」を「異常なし」へ変えた、あるいは「浮きのような音」を「浮き」と断定した場合は採用しません。下書きの品質は流暢さではなく、根拠と表現の距離で評価します。
5.公式様式との照合を含む、建築士の確認手順
手順1:提出先と最新版の様式を確定する
国土交通省のページには、建築物の定期調査報告に関する告示、調査結果表、関連様式、改正告示が掲載されています。[1] ただし、実際の提出先が求める様式や添付書類は自治体ごとに確認が必要です。まず自治体名、対象用途、報告周期、提出期限、提出窓口を案件台帳に記録します。
手順2:現地資料を原資料のまま固定する
調査日、調査者、補助者、図面番号、写真番号、測定値、聞き取り先を固定し、後から編集できる作業用コピーを作ります。写真を並べ替える場合も、原写真のファイル名と撮影日時を残します。ここを省くと、AI以前に証跡が弱くなります。
手順3:Geminiには項目別の整理だけをさせる
一度に報告書全体を作らせず、外壁、屋上、避難施設、防火区画など、項目を分割します。分割すると、情報の混線と長文の見落としを減らせます。各出力に「根拠資料・写真番号」「未確認理由」「資格者確認欄」を残すのがポイントです。
手順4:三点照合を行う
第一に、現地メモと出力文を照合します。第二に、出力文と写真・測定記録を照合します。第三に、出力項目と最新版の公式様式・告示の項目を照合します。三点が一致しない場合、AIの文章を直すだけで済ませず、現地または原資料へ戻ります。
手順5:資格者が判定と署名を行う
最終的な判定、法令上の扱い、是正提案、行政への提出、記名・押印や電子署名の適否は、案件を担当する資格者と組織の責任者が確認します。検査補助者が作った整理表は、資格者の確認を受ける前提の内部資料です。Geminiの出力をそのまま報告書へ貼り付けて提出する運用はしないでください。
手順6:確認履歴を保存する
採用した出力、修正した箇所、修正理由、確認者、確認日、参照した様式の版を保存します。案件ごとに「AI利用あり/なし」だけを記録するのでは足りません。どの範囲を補助させ、どこから人が判断したかが分かる記録にします。

6.提出前チェックリスト
最後の確認は、報告書を読んだ第三者が同じ根拠へたどり着けるかという視点で行います。次の項目を、担当資格者のチェック欄付きで運用してください。
- 対象建物、用途、所在地の表記が、提出先の登録情報と一致している。
- 調査日、調査範囲、調査者・補助者の記載が実態と一致している。
- 各記載に写真番号、図面、測定記録などの根拠が対応している。
- 「確認済事実」「未確認」「推測・聞き取り」が混在していない。
- AIが追加した固有名詞、数値、判定、法令解釈がない。
- 空欄の理由と追加確認の要否が明記されている。
- 最新版の公式様式、告示、自治体の提出要領と照合している。
- 入力禁止情報を外部サービスへ送っていないことを確認している。
- 資格者が最終判定、是正判断、提出可否、署名を確認している。
7.よくある質問(FAQ)
Q1.GeminiにPDFの報告書を読み込ませれば完成しますか?
A.完成しません。PDFの文字や表を整理する補助には使えても、画像の判読、項目の意味、自治体ごとの運用、法令適合性を保証しません。原本を保持し、項目ごとに根拠を確認してください。
Q2.写真を見せて「異常の有無」を判定させてもよいですか?
A.判定を委ねる使い方は避けます。写真は位置や記録の整理、見落とし候補の洗い出しに限定し、実際の判定は調査方法・測定・現地状況を踏まえて資格者が行います。
Q3.過年度報告書との比較は自動化できますか?
A.差分候補の一覧化は可能ですが、改修、用途変更、写真の撮影条件、様式改正を考慮しなければなりません。「変化あり」と出た箇所を、現地と原資料で再確認する運用にします。
Q4.AIを使ったことを報告書に書く必要がありますか?
A.提出先のルール、契約、組織の規程を確認してください。少なくとも内部の品質管理記録には、AIを下書き・整理・確認補助に使った範囲と、資格者が最終確認した事実を残すことを勧めます。
まとめ:Geminiは「判断の代替」ではなく「確認できる下書き」のために使う
建築物定期調査報告書でGeminiを活用するなら、目的は作業を派手に自動化することではありません。現地メモを項目へ整理し、確認済事実・未確認・推測を分け、空欄や矛盾を見つけ、公式様式との照合をしやすくすることです。入力禁止情報を除き、原資料と証跡を保管し、資格者が最終判断・署名・提出を行う。この順序を崩さなければ、AIは補助者として役立ちます。
AIは下書き・整理・確認補助に限定してください。安全、法令適合性、品質、契約、購入・発注その他の判断をAIに任せないでください。報告書の責任は、現地を確認し、法令と様式を読み、最終的に署名する資格者にあります。
AI導入の社内ルールを整える場合は、建築業界で生成AIを安全に導入する30日計画も参考にしてください。写真やAIへの相談を安全な情報整理にとどめる考え方は、新築の施工不良をAIに相談する前の準備にも共通します。
参考リンク
- 国土交通省:建築基準法に基づく定期報告制度について(制度の概要、対象、告示・様式、改正情報)
- 日本建築防災協会:定期報告制度ポータルサイト(制度関連情報)
- mashi0-1.com:AI×建築・不動産カテゴリー(関連記事一覧)

