この記事はこんな人に向けて書いています
- 中古住宅(一戸建て・マンション)の購入を検討していて、気になる物件が見つかった人
- ホームインスペクション(住宅診断)が大事らしいとは聞くけれど、「費用はいくらかかるのか」「売主と買主のどちらが払うのか」「どのタイミングで頼めばいいのか」が分からず、申込みの足が止まっている
- 費用の目安と進め方を理解したうえで、契約前に建物の状態を確認し、数千万円の買い物で後悔しない判断をしたい
はじめまして。一級建築士・宅建士として不動産・建築の実務に20年以上携わっている「mashi」です。
中古住宅の購入相談を受けていると、インスペクションについては「やった方がいいとは思うけれど、よく分からないから後回し」という声をよく聞きます。ところが、インスペクションは入れるタイミングを逃すと、そもそも実施できなくなる類いのものです。費用も含めて「知らなかった」では済まないので、実務の立場から要点を整理します。
結論:費用は5万〜7万円前後、払うのは「依頼した人」、入れるのは「契約前」
先に結論をまとめます。
- 費用の相場:一戸建ての基本調査(目視中心)で5万〜7万円前後が目安。会社や建物の大きさによっては5万〜10万円の幅があります
- 誰が払うか:原則として「依頼した人」が払います。買主が自分の判断材料として依頼するなら買主の負担です
- いつ入れるか:購入申込の後、売買契約を結ぶ前が基本です。契約後では、結果を見て判断を変えることが難しくなります
以下、それぞれの根拠と注意点を順に解説します。
ホームインスペクション(建物状況調査)とは
ホームインスペクションは、住宅の劣化状況や不具合を専門家が第三者の立場で調査し、結果を報告するサービスです。宅建業法では「建物状況調査」と呼ばれています。
調査では、屋根・外壁・基礎などの外回り、室内の傾きや雨漏りの跡、給排水設備の状態などを、目視と計測器具で確認します。壁の中や基礎の内部まで壊して調べるものではなく、「今の建物の状態を、買う前に把握する」ための調査だと理解してください。
2018年の法改正で「説明」は義務化。ただし調査自体は任意
2018年4月1日の改正宅地建物取引業法の施行により、中古住宅の売買では宅建業者に次のことが義務付けられました(出典:国土交通省)。
- 媒介契約の締結時に、建物状況調査を実施する者の「あっせん」に関する事項を記載した書面を交付すること
- 買主に対して、建物状況調査を実施したかどうかと、その結果の概要を重要事項として説明すること
- 売買契約の成立時に、建物の状況について当事者双方が確認した事項を記載した書面を交付すること
注意したいのは、義務化されたのは「あっせんの案内と説明」であって、調査の実施そのものではないという点です。つまり、買主が希望しなければ調査は行われません。「不動産会社が説明してくれたから、建物は調べてもらえたはず」という思い込みが一番危険です。
調査を行うのは、講習を修了した建築士
宅建業法に基づく建物状況調査を行うのは、「既存住宅状況調査技術者」です。これは、国の登録を受けた講習機関の講習を修了した建築士(一級・二級・木造建築士)を指します(出典:国土交通省)。依頼先を選ぶときは、この資格・登録があるかを確認してください。
なお、このブログでは、建築士がインスペクターとして働く側の事情を解説した記事も公開しています。調査する側の視点を知ると、依頼先選びの参考になります。
関連記事:ホームインスペクターの副業を始める方法|資格・報告書・仕事の取り方を一級建築士が解説
費用の相場はいくらか
日本ホームインスペクターズ協会は標準料金を定めておらず、費用は調査会社ごとに異なります。複数の調査会社・相場情報で公表されている金額を整理すると、目安は次のとおりです(いずれも一般的な目安で、建物の延床面積・調査範囲・地域によって変動します)。
| 調査の種類 | 費用の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 一戸建て・基本調査(目視中心) | 5万〜7万円前後(会社により5万〜10万円) | 中古住宅の購入前調査の標準的な内容 |
| マンション・基本調査(専有部分中心) | 3万〜6万円程度 | 確認範囲が室内中心のため戸建てより低め |
| オプション:床下・小屋裏への進入調査 | 基本料金に+1万〜3万円程度ずつ | 点検口から目視する範囲を超えて中に入る調査 |
| オプション:耐震診断・機器調査など | 基本料金に+数万円〜 | 内容によっては合計10万円を超えることもある |
現地調査の所要時間は、30坪程度の住宅で2〜3時間が目安です(出典:日本ホームインスペクターズ協会「よくある質問」)。報告書は後日、写真付きで提出されるのが一般的です。
実務の感覚として、数千万円の買い物に対して5万〜7万円は「高い」と感じるかもしれません。ただし、雨漏りや構造の劣化を見逃せば、購入後の補修は1か所で数十万円単位になることも珍しくありません。費用は「建物の状態を知るための情報料」として捉えると判断しやすいはずです。
費用が変わる主な要因
同じ「基本調査」でも見積もり金額に差が出るのは、主に次の要因によります。
- 建物の大きさ:延床面積が大きいほど確認範囲が広がり、料金が上がる設定の会社が多い
- 調査範囲:外回りと室内の目視のみか、床下・小屋裏の点検口からの確認まで含むか
- 報告書の詳しさ:写真付きの詳細な報告書か、簡易な報告か
- 地域・出張費:物件所在地によっては交通費・出張費が別途かかる場合がある
1社だけの見積もりで決めず、調査範囲と報告書の内容をそろえて複数社を比較するのが、費用を無駄にしないコツです。「安いから」という理由だけで選ぶと、肝心の床下や小屋裏が対象外だった、ということもあります。
費用は誰が払うのか
原則は「依頼した人」が払う
インスペクションの費用は、依頼した人が負担するのが原則です(業界の一般的な取り扱い)。買主が「この家を買って大丈夫か知りたい」と依頼すれば買主の費用、売主が「状態を明らかにして売りたい」と依頼すれば売主の費用になります。
中古住宅の購入場面では、買主が自分の費用で依頼するケースが一般的です。売主側に費用負担を求める決まりはなく、その交渉自体が取引の前提になるものでもありません。「費用がもったいないから売主に払ってもらおう」と考えて時間をかけると、後述するタイミングを逃しかねないので注意してください。
売主が実施済みの場合は、まず結果を確認する
物件によっては、売主が売却前にインスペクションを実施済みのことがあります。その場合は、重要事項説明で結果の概要が説明されます。費用をかけずに建物の状態を知れるので、まずは報告書の内容を確認しましょう。
ただし、実施時期が古い場合や、調査範囲が限定的な場合は、最新の状態とずれていることもあります。気になる点が残るなら、自分でも依頼するかを検討してください。
いつ入れるべきか:基本は「申込後・契約前」
タイミングの考え方
買主が依頼する場合の基本は、購入申込(買付申込)を入れた後、売買契約を締結する前です。理由はシンプルで、結果を見て「買う・買わない」「価格や条件を交渉する」を判断できるのが、契約前だからです。
流れとしては次のイメージです。
- 内見で物件を確認し、購入の意思を固める
- 購入申込を入れる(このとき、インスペクション実施の希望を仲介会社に伝える)
- 売主の了解を得て、調査会社に依頼・日程調整
- 現地調査(2〜3時間程度、売主または仲介会社の立会いが一般的)
- 報告書を受け取り、内容を確認してから売買契約へ進む
なお、内見の段階で建物のどこを見るべきかは、次の記事で「見る順番」として整理しています。インスペクションを入れるかどうかを判断する材料にもなるので、あわせてご覧ください。
関連記事:中古住宅の内見チェックリスト|一級建築士・宅建士が「見る順番」と判断基準を解説
契約後・引渡し後では遅い理由
売買契約を結んだ後に調査をしても、建物の状態を理由に契約を白紙に戻すことは原則できません。結果が悪くても「知ったうえで買った」扱いになりやすく、価格交渉の材料にも使いにくくなります。
また、修繕履歴などの資料が乏しい物件ほど、契約前の確認の価値は上がります。資料と建物の現況をセットで確認する進め方は、次の記事でも解説しています。
関連記事:中古住宅の修繕履歴がないときは?一級建築士が教える購入前の確認方法
依頼前に確認したいチェックリスト
- 仲介会社に「契約前にインスペクションを入れたい」と申込時点で伝えたか
- 売主の立会い・入室の了解が取れているか(居住中の物件は特に必須)
- 契約日の日程に、調査と報告書の受け取りが間に合うか
- 調査会社の担当者が既存住宅状況調査技術者(講習修了の建築士)か
- 調査範囲に床下・小屋裏の確認が含まれるか、オプション料金はいくらか
- 報告書の形式(写真付きか)と、提出までの日数を確認したか
調査結果はどう活かすか
インスペクションは「受けて終わり」ではありません。報告書を受け取ったら、次の3つに使ってください。
- 購入判断の材料にする:劣化の程度と補修の緊急度を見て、「この価格で買ってよいか」を判断する
- 購入総額の見通しを立てる:指摘された箇所の補修費を概算し、物件価格に上乗せして総額で考える。当面の修繕予算を確保しておく
- 入居後の修繕計画に使う:今すぐ直すもの、数年以内に直すもの、経過観察でよいものを分けておくと、住んでからの支出計画が立てやすい
指摘があったからといって、その物件を諦める必要はありません。中古住宅に何らかの劣化はつきものです。大事なのは、状態を知ったうえで価格と見合うかを判断することです。知らずに買って後から気づくのが、一番の後悔につながります。
まとめ
- 費用の相場は、一戸建ての基本調査で5万〜7万円前後(会社により5万〜10万円)。オプションを足すと10万円を超えることもある
- 費用は原則として依頼した人が負担する。買主の判断材料として入れるなら買主の費用
- タイミングは購入申込の後、売買契約の前。契約後では結果を判断に活かせない
- 2018年の法改正で義務化されたのは業者の「あっせん案内と説明」であり、調査の実施は買主の希望次第
インスペクションは、中古住宅購入の不安を「なんとなく」から「数字と事実」に変えるための手段です。費用とタイミングを先に押さえて、申込の段階から段取りを組んでおきましょう。
中古住宅を買う前に確認したいポイント全体像については、私の著書『中古住宅を買う前に読む本』でも、内見から契約までの確認手順をまとめて解説しています。記事とあわせて、購入前のチェックにご活用ください。
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